2006年05月06日

『予感』

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『予感』 ★★★★☆

ポラリスのオオヤユウスケ、クラムボンの原田郁子、ハナレグミの永積タカシ、の三人からなるボーカルユニットohana。彼らのデビューシングル「予感」のPVを撮ることになった廣木隆一が、3人と「なら映画にしよう!」と盛り上がり製作されたのが本作。
上映時間51分。長編映画と言うには短い。けれど十分映画な仕上がりを見せたショート・ムービー。もちろん、中ではohana「予感」を一曲まるまる流さなくてはいけないし、物語は曲とリンクしなければならない。となると、物語る時間もテーマも制限される。
“予感”という言葉(もしくは曲)から端を発することになる本作は、曖昧なものを曖昧なものとして、しかし確実の心に残る物語を紡いできた廣木隆一の得意とするところ。そういえば、傑作『ガールフレンド』も“愛”“友情”“エロス”をテーマに、女性を主人公に据える、という縛りがあった。ならば、本作の監督に廣木隆一は間違いない。テーマは“予感”。問題は…時間だ。
ここで廣木隆一は思い切った手段を取った。
モノローグから、物語が立ち上がる段までばっさりと切り捨てた。
だから三本の線から成る物語はどれもすでに進行形だ。
これがohanaの歌う「予感」と実にマッチしている。歌詞で“突然の心変わり”“とまどったまま”とあるすぐあとに、“出会った”“恋におちていく”と、歌詞を全て追えばひとつの恋物語を語っていると取れるものが、こうして端的に上げると、新しい恋の始まりを予感させるものとしても受け取れる。過去を振り返るではない、日常にふと訪れた時間感覚のなさも感じられる。穿った読みをするなら時間軸を意図的に無視しているようにも思える。浮遊感が心地良い。
こうした立ち位置の不確かさがそのままに映画に反映される。
物語の始まりを意識し始めた途端に、これは佳境、もしくは転換期にすでに達していると気付く。
オオヤユウスケ演じる家庭教師・花田は、家庭教師先の姉妹の間で恋心を揺れ動かしている。原田郁子演じる工場勤めのハナは、自分の恋の芽吹きの可能性を横目に見ながら、自ら働く会社が傾き、哀しそうにする社長を見つめる。永積タカシ演じる漫画家・花太郎は、隣に住むヘンなオヤジと、美女との別れ話に聞き耳をたてる。
どれも、物語は動き始めている。彼らは動き始めている。彼らをそう導いた過程は語られない。語られないからこそ、無限に想像は広がる。それもまた、厳選し、端的に言葉を乗せ想像する余白を多く残す歌詞と近い。

それにしても、配役の妙。
観るまで忘れかけていたが(というか脇役の豪華さに目を奪われていた)、主演の三人は音楽のプロであっても演技のプロではない。演出する廣木隆一の巧みさもあるが、何より配役の妙で彼らを浮き上がらせない。
最もニュートラルな佇まいのオオヤユウスケの周りに、貫地谷しほり、河井青菜。家庭教師先で教える女子高生の妹(貫地谷しほり)、さらに姉(河井青菜)に恋心抱き抱かれるというおいしい役どころ。あのシチュエーションで貫地谷しほりに迫られるのは男にとっては拷問。反則。本作の柱とも言える彼のエピソードには、大森南朋も関わり磐石の態勢。
続いて、原田郁子。物語の地味さ、彼女の醸し出す穏やかさに合わせるよう、わりに地味な脇の配役であるが、ここでもっとも関わるのは社長を演じる大口広司。とはいえ、彼の場合、どちらかといえば寡黙に通すので少しでも彩りを施そうと会社同僚に山田キヌヲ(少しの出番ながら抜群の存在感!)、社長夫人(と言うほどに華やかでないけれど)に石井苗子。
最後に、永積タカシ。彼の個性にプラスアルファされたエキセントリックさ。与えられた役どころはコメディリリーフ。もちろん、彼にも恋の予感があり、そこに今井祐子が配されるが、今井祐子との、そして永積タカシとの相手役、三角関係の一角に竹中直人。作中からはみ出すぎりぎりのところで笑いを生む才能は彼の出演作から察しても間違いないところ。永積タカシとのやり取りは笑いと同時に和みを生み、ここばかりは空気も緩む。

進行形の彼らの日常、加速がさらにかかったところで物語の幕は閉じる。当然、その延長線上に何かまたあるのだろうが、それもまた観客の想像に委ねたまま。
ohanaのPVとしての役割を果たす歌の部分はエピローグの直前に挿入される。結局、PVとして端的にこの作品が流れる箇所がここであるよう、少なからず物語との差異を感じるが、こればかりはしょうがない。ただ、廣木隆一が作り出すことを得意とする空気の感じはそのままなのが嬉しい。
このあと、エピローグへと続くがこれはおまけみたいなもの。作中のキャラクターと、現実での彼らとの錯綜感。まあ、突然饒舌に、語りすぎている感は否めないけれど。
posted by やすゑ at 23:40| Comment(0) | TrackBack(0) | 映画 (や) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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